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横浜地方裁判所 昭和50年(ヨ)870号 決定 1976年4月09日

申請人 安藤明

右代理人弁護士 陶山圭之助

同 谷口隆良

同 山本安志

同 宮代洋一

同 佐伯剛

同 高荒敏明

同 若林正弘

同 谷口優子

被申請人 昭光化学工業株式会社

右代表者代表取締役 白幡梧郎

右代理人弁護士 成富安信

主文

申請人は被申請人に対し、雇用契約上の地位にあることを仮に定める。

被申請人は申請人に対し、昭和五〇年一〇月二五日から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金一五万二二四円を仮に支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

申請人は主文第一、第二項と同旨の決定を求め、被申請人は「申請人の申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする。」との決定を求めた。

第二当裁判所の判断

一  申請人は、「被申請人が申請人に対し、昭和五〇年八月二五日付書面でした、同年九月二五日をもって申請人を解雇する旨の意思表示は、(一)労働協約四七条に違反すること、(二)解雇権の濫用であること、(三)解雇基準に該当する事実の存しないことのいずれかの理由により無効である。」旨主張し当裁判所は、次の理由により、右解雇の意思表示は労働協約四七条に違反して無効であると仮に判断する。

1  疎明によれば次の事実が認められる。

(一) (当事者及び雇用契約)

被申請人は、東京都大田区本羽田二丁目一五番二一号に本店及び羽田工場を、神奈川県座間市栗原六、二〇七番地に相模工場を有し、工業薬品、医薬品等の製造販売を目的とする株式会社であり、申請人は昭和四五年一〇月二七日被申請人会社に採用され、右相模工場に勤務してきた。そして、申請人は、被申請人会社の従業員をもって組織される申請外昭光化学労働組合(以下、申請外組合という)の組合員であった。

(二) (解雇の意思表示)

被申請人会社は申請人に対し、昭和五〇年八月二五日付書面により、「就業規則四二条、労働協約四七条により同年九月二五日をもって解雇する。」旨の意思表示をした(以下、本件解雇という)。

(三) (本件解雇に至る経緯)

被申請人会社は、昭和四九年末ころから経営が悪化したため、昭和五〇年四月、前記羽田工場の操業停止、羽田、相模両工場での一時帰休、嘱託や臨時従業員の人員整理等を実施し、経営の改善に努めてきたが、さらに社員についても人員整理を行うこととし、申請外組合との間に締結した労働協約四七条「会社は、企業整備等やむを得ない事由により組合員の解雇を行おうとするときは、一ヶ月前に組合に内示し、組合と協議決定する。」との規定に基づき、同年八月六日、同組合に対して右人員整理に関する協議の申入れをし、同日以降、同組合役員との間で団体交渉、事務折衝等を繰返えした結果、整理解雇の基準、条件、方法等に関する合意が成立し、同月一四日、二二日の両日にわたって、同組合執行委員長との間に右合意を内容とする「確認書」が取交わされ、引続く同月二七日の団体交渉において、前記整理解雇基準の該当者の氏名及び該当事由が開示され、同組合の出席役員はこれを了承した。

2  ところで、労働組合の代表者は労働組合のために労働協約の締結その他の事項に関して使用者と交渉する権限を有するのであるが(労組法六条)、交渉の結果労働協約の締結等組合としての意思を決定する権限機関は、組合規約等当該組合の定めるところである。

3  これを本件についてみるに、疎明によれば、申請外組合の組合規約一一条は組合の機関として、大会、委員会、執行委員会を置き、同一六条、一九条、二一条は、右各機関の権限を規定しているところ、本件のような人員整理にともなう組合員の解雇は、右規約一六条一〇号にいう、「重要なる労働条件に関する事項」として、右三機関のうち大会の附議事項であると解され、前記労働協約四七条所定の「協議決定」において、組合としての意思を決定する権限もまた大会に属するというべきである。したがって前記「確認書」の内容、整理解雇基準該当者、該当事由につき組合としての意思を決定し、「協議決定」とするか、これを不満としてさらに交渉を継続すべきかを決めて、かくて最後的意思決定をする権限は、大会に属する。

しかるに疎明によれば、申請外組合の役員は事前に右意思決定権限を同組合の大会から委任を受けたこともなく、又、被申請人会社との間の前記合意した事項について右大会を開催してこれに附議することもしなかったことが一応認められる。

4  しかして、疎明によれば、申請外組合は被申請人会社に対して、組合規約の内容を通知しており、又、組合大会を開催する場合は、保安要員の関係で、組合から被申請人会社に通告することになっていて、被申請人会社としては、前記人員整理に関する事項が大会附議事項であること及び右事項に関して組合大会等が開催されていないことは十分に知っていたものと一応認められる。

5  さすれば、被申請人会社が申請外組合の役員との間になした前記「協議決定」は未だ労働協約四七条所定の「協議決定」としての効果を生じていないこととなるから、本件解雇は同条所定の適法有効な「協議決定」を経ないでなされたものといわざるを得ない。

よって、被申請人会社の申請人に対する本件解雇は、労働協約四七条に違反し無効というべきであるから、申請人と被申請人会社との間には依然として雇用契約が存続しているというべきである。

二  賃金及び保全の必要性について

疎明によれば、申請人は前月一六日から当月一五日締切り当月二五日払の約定によって賃金の支払を受けていたこと、本件解雇前三ヶ月の一ヶ月平均賃金は金一五万二二四円であること、申請人は妻子を扶養し、被申請人会社から支払われる賃金を唯一の生活の資としていることが一応認められる。

三  本件申請事件の裁判管轄について

本件申請事件は申請人が、被申請人会社との間に雇用契約上の地位にあることを仮に定めるとともに、被申請人会社に対して賃金の仮払を求めるものであるから、ともに債権法上の権利ないし法律関係に基づく、民事訴訟法五条所定の財産権上の訴と解するのを相当とするところ、疎明によれば、申請人は、入社以来一貫して、前記被申請人会社相模工場において労務を提供し、同工場にて賃金の支払を受けてきたことが一応認められるから、被申請人会社及び申請人の各労働契約上の相互の義務履行地は被申請人会社相模工場であるものと解して差支えなく、したがって、本件申請事件の裁判管轄は、同法七五七条、五条により右相模工場の所在地を管轄する当裁判所にも存するというべきである。

四  以上によれば、申請人の本件申請は一応理由があるのでこれを仮に認容することとし、申請費用の負担については民事訴訟法八九条を準用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 立岡安正 裁判官 中村盛雄 長門栄吉)

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